愛媛県最南端・愛南町での事務所併用住宅。愛南町に向かう片道二時間半の道のりの内、一時間ほどは高速道路の通っていない下道であった。道すがら立ち現れる雄大な自然・風土やこの地域固有の自然光のニュアンス(これは特に印象的に脳裏に刻まれている)がこの建築のあるべき姿を考える大きな出発点になったように思う。
住居と事務所の完全分離を望まれたため、切妻屋根の二棟の建物をデッキテラスと共用玄関を介して繋ぐ構成とし、住居棟は田園と遠い山並みの眺望を、事務所棟は中庭のプライベートな視界を得た。アプローチの長さに豊かさを感じると共に、来客を玄関に至るまでに事前に察知できるという機能性も兼ね備えている。
住居棟・事務所棟ともに切妻勾配天井の大らかなワンルームの構成になっている。内部は至ってシンプルに見えるが、中間に柱や束を設けないために、棟木にスパン10M弱・ヤング係数E150の高強度集成梁が用いられており、目には見えない大きな特徴と言える。
事務所は壁一面に既製品の本棚を設え、建主がそれに応じた既製品のアタッチメントを加えていくことでフレキシブルな使い勝手を得ることができる。住居は一人の住まいということで、独立した寝室のないワンルームを求められた。メインとなる開口はフルオープンの木製サッシだが、紙布、障子を用いた建具で多様な光や視界の取り入れ方を可能にした。
今回、建築の場所性について深く考えさせられた。周辺環境が良いからと言って、ありのままに取り込めば良いという訳ではなく、適切な取り込み方があるように思う。まだ自分の中できちんと言語化できていないが、これからの課題として考え続けていきたい。