Taichi Nishishita
Architect & Associates
  • 春賀の家

    House in Haruka
    2023

  • 敷地は谷合いに位置し、緑あふれる里の風景の中にある。
    周囲の山々は自然のありのままの姿を成し、
    自然の美しさと荒さを同時に感じる場所であった。

    まず、南に緩やかに下がる地形に沿うように、
    軒の深い大屋根を架けたシンプルな外観とした。
    建築が主張することのなく、
    大らかな風景に溶け込んでいくことを目指した。

    クライアントはモノを大切にし、
    アンティークを愛する感性を持つ。

    ブルーグレーの外壁、ザラつきの床材、
    合板仕上の天井などのある種の「荒さ」や
    できた瞬間から懐かしさを
    感じるような仕上げにより、
    アンティークとの調和を図った。

    この敷地とクライアントの特性を
    デザインに昇華する工夫の一つとして、
    デッキへと出られる掃き出し窓前には、
    あえて小上がりの段差を付けた。

    この段差はある時は
    クライアントの愛するモノたちの設えの棚、
    物入れとして居場所となる。
    ある時には集う人の腰掛や
    小さなお子さんの勉強机(遊び台)ともなり得る。

    このように「段差」が特定の用途を持たないからこそ、
    多様な用途がうまれ、暮らしを支える装置となっている。

    LDKは野放しに開放的につくるのではなく、
    自然との程よい距離を測りたい。
    段差によりデッキから一段下がることにより、
    大開口で外部と対峙しながらも、
    どこか穴倉のような安心感が生まれればと考えた。

    住まい手と敷地の声を素直に聴くことの大切さ。
    住まい手と敷地に似合う家こそ、
    最も大切なことなのかもしれない。