完璧な家は幸せな家か?
2019.07.31
以下、建築家・高野保光さんの著書の引用です。
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仮に建て主の希望通りの完璧な土地があり、建て主のすべてのリクエストを盛り込んだ欠点のない家ができたとします。果たして、この家は本当に豊かな家になるでしょうか。
設計事務所を開設した初期の頃、僕はこれに近い体験をしたことがあります。建て主の希望と思いを全面的に取り入れ、まさに「希望通りの住まいが実現した」と思われた家がありました。しかし建て主は、あろうことか「自分の思ったように作ってもらって何も言う事はないが、どうもピンとこない」と言うのです。建て主の要望に沿って忠実に設計した家だったにもかかわらず、どうしてそのように感じられたのでしょうか。
今思えば、それは、設計初期の段階から建て主が理解しイメージできる範囲内で考えられた家だったこと、早くから欠点をなくすことに全力を上げた設計だったことなどが原因ではなかったかと分析しています。それ以来、僕は建て主が本当に欲しい住まいは、建て主が思い描く世界にはなく、さらにその先に設計側が提案する中にあるのだろうと考えるようになりました。
建て主の要望は大切ですが、それをただ形にするだけでは建て主が感動する家にはなりません。設計初期の段階から欠点を排除し、減点のない家を目指すよりも、建て主とともに夢を語り、少しの欠点は認めながら、獲得した長所を伸ばすワクワクするような家づくりをしたいものです。
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随分前に出合った文章で、以来、何度も繰り返し読んでいます。
建主の御用聞きとなって、ただそれを図面に起こすというのでは、「提案」とは言えません。自惚れてはいけませんが、自分にご相談に来てくださっているということは自分の建築や考え方を気に入ってくれているということ。要望は取り入れつつも、自分らしい建築をつくるべきだと思います。
そして、自分らしい建築を作ることが、ひいては、建主の潜在的な要望を叶えることになっていれば、この上ない幸せですね。
「建て主が本当に欲しい住まいは、建て主が思い描く世界にはない」
「欠点の無い家づくりではなく、魅力のある家づくりをする」